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第62代理事長 清水義弘
1999年7月29日木曜日。26歳であった私は、生命(いのち)の一部を失い、二度目の新たなる生命を享けた。それは、私に取って必然であり、使命を課せられたものと信じている。今改めて、この尊い生命に感謝する。
尊い生命
2011年3月11日、東日本大震災が日本を襲った。当時の報道は脳裏に焼き付き、日本国民の記憶に深く刻まれた。一瞬にして、多くの生命や財産が脅かされ、日本の政治、経済、そして、国民の心に深く爪痕を残した。人々は自然の脅威を目の当たりにして将来に対する気力を見失い途方にくれる一方、今まで当たり前にあったインフラや生活物資が滞る中、日常の生活を取り戻すために、助け合い、励まし合い生きることに必死になった。その混沌とした中で、沸々と沸き上がる使命感を感じる者たちが立ち上がり、自らの意思で復興に向けて歩み始めた。我々は、この大震災から多くのことを学んだ。どんな困難な問題や障害が立ちはだかっても敢然と立ち向かい、そして、助け合いながら未来に向かって歩んでいく人々の“絆”が世界中から評価された。多くの尊い生命が犠牲になったが、未来に向かって勇敢に突き進む尊い生命もそこにあった。
この大震災において生命の尊さを感じた一方、現代の社会においては本来尊いはずである生命があまりにも軽んじられているのではないだろうか。後を絶たないいじめの問題や、毎年3万人以上の方が自らの生命を絶ってしまう時代である。
戦後68年を振り返ると、生きるために国民一体となって必死になった時代を否定することは出来ない。しかし、いつの時代からか必要以上の豊かさを求め、本来の生命の尊さが置き去りになってしまった。国や人が自らの役割を見失うと生命の尊さまでも見失ってしまうことを私は今痛感している。
尊い生命の意味と価値を後世に伝えていくことが我々青年世代の使命である。
闘魂こそ真の生命
冒頭に、私は二度目の生命を享けたと述べた。それは、1999年に右足関節の悪性腫瘍と診断されたことである。初めてそれを告げられた時に受け入れることは困難であった。しかし、治療が進むにつれ、それが現実であるのだと受け入れざるを得ない状況に追い込まれた。他の臓器への転移の可能性を告げられ、初めて「死」というものを感じた。そして、腫瘍の部位を切除する、つまり、右下腿で切断するとの決断を迫られ、私は、自分の将来を案じ落胆した。心配する周りの人のことなど配慮できるはずもなく、ただただやるせない思いだけが募り、悲観する時間だけが過ぎていった。いつの頃からか、そんな悲観的な時間を過ごすことにも疲れ、どうしたら前向きになれるのかを考えるように自分の心境が変化していった。今となっては、自然にそういう思考にならざるを得なかったのだと思える。人は窮地に立たされ続けると自ずとプラス思考になり、あらゆる可能性を模索する本能がある。事実を変えることは出来ない。ただし、自分の解釈の仕方次第で何事も可能になるということに気付いていくのだ。それまでの思考が、自分でも信じられないくらいに物事の見方が変わった。そこで、自分の心境の変化の過程を振り返り気付くことがあった。それは、落胆した時に私の周りにはたくさんの人が居て、温かく励ましてくれたことからであった。多くの人の支えによって自分が生きてきたのだということをその時になって感じ、だからこそ、私は前向きに立ち直ることができたのだと。家族、友人、同僚、医療関係者、そして、全ての方々のお陰で私は生きていることが出来ているのだということを痛感した。感謝の気持ちが心の底から沸いてきた時であった。
そして、視点を変えてみると、私が多くの方々からの支えによって生きているということは、自分自身も誰かの支えになっているのではないだろうかと考えが及び、私は一人でも多くの人の支えになれる生き方をしていくのだと決意した。
「私は今、ここに生きている。」
これが事実である。一度は失ったとも思えた生命。世の中に絶対と言えることは唯一であり、生命は必ず死を迎えるということだけである。生命には限りがある中で、「私は今、何故生きているのか。私には課せられた使命があるのではないか。」と感じた。人は、生きているだけで、多くの人から影響を受け、そして、多くの人へ影響を与えている。時には、勇気を与え、自信を与え、そして、苦しみや悲しみを分かち合い、お互いが成長を目指し生きているのだ。それができるのは人間の能力であり、生命の尊さの所以である。
この与えられた生命をさらに輝かせるためにはどのように生きていくべきなのか。生命が輝いている時とはどのような時なのだろう。ただ長寿を望むことで果たして生命は輝くのだろうか。
私は、生命が輝くということは、いかに自らの生命を燃やし、他の生命を照らし、火を付けていくことができるかではないかと思う。自らが燃えることで、他の生命もさらに燃える。その連鎖が、人類の成長のプロセスであった。いかなる時でも自らに負けない不屈の闘魂をもって生命を燃やし、課せられた使命を全うすべく生きていきたい。闘魂こそ真の生命の証である。
無限の生命
我々JAYCEEは、志を同じくするものが集い、互いの生命を切磋琢磨している。しかしながら、我々は自らの生命を何のために使うのか。与えられたこの生命をどのように燃やし、輝かせていくべきなのか、それを自覚することができているだろうか。第62期を迎えた大垣青年会議所は、日本でも有数の歴史ある青年会議所の一つである。敗戦後の荒廃する中、地域復興と社会開発のために設立された大垣青年会議所は、多くの先達によって創始の志を継承しながら創造の精神を掲げ、常に時代の先端で可能性を切り拓いてきた。我々は愛するこのまちの未来へ夢と希望を抱き、いつの時でも地域のリーダーとして、そして、輝ける人財として活動の本質を見極めた上で、歩みを止めずこの地域に最良の変化を起こし続ける。それがJAYCEEとしての生き方であり、JC運動の本質である。
我々の先輩は、その課せられた使命を全うするかのごとく60余年に渡り生命を繋ぎ、燃やし続け、我々に多くの財産を残してくれた。このまちのリーダーとして率先して先頭に立ち汗を流し、侃々諤々と議論を交わしてきた。そして、このまちのあるべき姿、ビジョンであるグランドデザインを示し、時代や地域のニーズに合わせた資源の開発を目指し運動を続けてきた。それらを実現するための活動に多くの仲間が集い、実践を通じてお互いの可能性を磨いてきた。つまり、お互いの生命を磨き、燃やし続けてきたのだ。生命は、生命によってしか磨くことはできないものである。多くの生命が互いに影響し合い、より正しいと思える燃やし方を追求していくのである。
我々は諸先輩から連綿と繋げられてきたその魂を受け継ぎ、新たなる可能性に向けてJC運動を続けている。次代へと続く無限の可能性を切り拓き続けるために自らの生命を燃やし続けていくのだ。
そしてその目的は、我々の定款に明確に示されている。
第1章 総則 第3条
本会議所は、社会開発の理念に基づく経済の発展と福祉国家の実現をはかり、かつ、指導力開発を基調として自己の啓発につとめるとともに国際理解と親善を助長して、日本および世界の繁栄と平和に寄与することを目的とする。これが、我々が集い、運動している目的である。『人間にとって最も愚かなこととは、途中で目的を見失うこと』と言われている。私達はこの目的に向かって運動していることを、常に心に留めておかなければならない。そして、その目的実現へのプロセスを共有し、さらに高みを目指して議論を交わし、自らの存在価値を磨き高めることで、そのビジョンを成長させていく。この目的の意味と価値を共通の認識とし、自らの役割を明確にすることで組織としての成果につなげることができるのである。JC運動そのものが、生命の燃やし方を体現していくことである。そして、無限に続くこの闘魂と生命を次代へと繋げていくのである。
躍動する生命
我々の住まう西美濃地域は、広大な濃尾平野の西部に位置し約40万人の人口を擁している。そこには、多くの躍動する生命がある。いかにその生命に火をつけ燃やし続けていけるかが、大垣青年会議所の使命となる。いつの時代も、すべての源は“人”である。人には、他に対してどのような影響を与えているかによって、“人財”、“人材”、“人在”、“人罪”と表現できる。我々は、地域社会において能動的に変化を起こしていく“人財”となり、より地域に貢献していけるリーダーとして成長を目指していくことが、目的実現へのプロセスになるのである。
指導力とは、リーダーシップであると考えるが、それは、“一人の人間が他の人間に対してプラスの影響を与え成長へと導いていく能力”である。人は誰もがリーダーであり、その個性を活かしたリーダーシップを発揮しているからこそ社会は成り立ち、創造的な価値が生み出され成長していくのである。リーダーシップとは誰もが持つものであるが、自らがリーダーであるとの自覚を持ってリーダーシップを発揮できる人財を育成しなければならない。プラスの影響を与えていく人財を育成していくことが、相互に認め合い、尊重しあい、高め合える社会の基盤になりうるものである。それは、自らの価値観の主張だけでなく、他の価値観を受け入れることで、より健全な価値観を育むことになり、地域の健全な成長には欠かせない要因になるものである。我々は、地域の人財を開発し、この地域の生命を活き活きと躍動させるための事業に取り組んでいくことを通して、率先してリーダーシップを発揮していくことが使命である。
2011年に大垣青年会議所は、「西美濃協調グランドデザイン」を策定し、この地域が今後さらに成長していく方向性を示した。それぞれの地域社会における諸問題は、地域によって異なり、グランドデザインを示すことだけでは解決されない。地域ごとに異なる問題を抽出し「西美濃協調グランドデザイン」に基づいた具体的な方策を、行政も含めた地域住民に提言し、地域住民主体のまちづくりへと繋げていく役割を担っていかなければならない。
第35代アメリカ合衆国大統領であったジョン・F・ケネディは、「祖国があなたに何をしてくれるかを尋ねてはなりません。あなたが祖国のために何をできるか考えて欲しい」と語った。現在の行政は、住民のニーズに耳を傾けることなく、行政主体のまちづくりが先行している。また、地域住民も依存的になり批判を繰り返すばかりで、そこに主体性は無いと言える。それでは、本当のまちの発展にはならないし、それが本来の行政の役割ではない。高度経済成長によって多くの権限が行政に集まり、物質的な豊かさを追求し建前主義による住民不在の行政社会を築いてきた。しかしながら、それも主権者である住民の責任でもある。活き活きとしたまちづくりを推進するためには、今こそ住民の意識を変革し、自らが主体となってまちづくりをしていくことへの可能性を、我々が指し示していくことが、地域社会におけるリーダーとしての役割でもある。
そこで、地域住民が社会に参画できる機会を創出し、実践できる社会構築、すなわちソーシャルデザインの実現が、今、必要となっている。それが実現できれば、地域住民の自立心を呼び起こし、自らの責任と創意工夫で自立した地域を創りだし、切磋琢磨し、時には協力し合えるのだ。それは、行政サービスとの連携によって様々な住民の活動が活発になり、魅力的かつ居心地の良い地域を作るのは自らの行動であると住民が自覚することで、住民が主役のまちづくりに変わっていくのである。それは、次代を担う人財へ、そして無限の可能性を持った生命へと繋げていく運動である。
今年度は、「西美濃協調グランドデザイン」に向けて具現化していくための事業として、それぞれの地域社会の中にある問題点とその解決策を地域住民から募りソーシャルデザイン実現コンテストを、『輝く西美濃人グランプリ(仮称)』として実施する。具体的に地域住民に機会を創出し、次代の住民主役のまちづくりに向けて一歩進めていく。
我々は地域で活き活きと躍動する生命の可能性を夢見て、地域社会の発展へと繋げていくことができるJC運動に携わっていることに誇りを持って臨んでいきたい。
繋げる生命
大垣青年会議所は、2012年に創立60周年の還暦を迎え、再び原点に回帰し新たなるスタートを切った。歴史あるこの大垣青年会議所のこれからの存在意義を高めていくためにも、創始の精神を胸に刻み明日へと向かって歩みを止めることなく立ち向かい続けなければならない。青年会議所とは、誰のために存在するものであるか。それは、次代を担う子孫のためであると考える。明るい豊かな社会づくりを掲げ、仲間と共に活動をすることを通して自らを律し啓発し、未来の世代がより住みやすくこの地域が発展していくことを願ってJC運動を続けている。諸先輩方がそうしてきたお陰で現代の我々が愛するこのまちがあるように。我々は、この運動を次代へと繋いでいく責務を持っている。志を同じくする者を募り、この闘魂を受け継いでいくことは、JC運動の第一歩であると考え、少子化が社会問題となる中、今年度も会員拡大活動を継続し、地域を活性化させていく仲間を増やしていくことが必要である。
我々はいつの時代もJAYCEEとして胸を張り堂々とした態度を取っていきたい。そのために、JC運動の本質を理解し、自らを律する精神力を養い、仲間と共に事業を創り上げ成果を出していくことを通じてリーダーシップを学び、更に、社会の役に立てる喜びを感じる健全な価値観を身に付けていくことが重要である。近年は、入会年度が遅くJC在籍年数が少なくなる傾向にあり、JC運動の本質や意義に気づいた頃に残りのJC運動を実践する在籍期間が少なくなっている。入会後、早い段階でそれらを学ぶことで会員としての能力を向上させ、即戦力としてJC運動に取り組んでいける環境づくりをする必要がある時代になったと感じている。また、その一環として、財政審査特別委員会を設け、理事会の運営を円滑に行える状況を作り、理事への運営支援を行える体制を整え、本質的な議論に集中できる環境づくりをしていく。
本年度は、岐阜ブロック協議会会長を輩出し、LOM内のみならず、他LOMへも大きな責任を担う年でもある。この機会に岐阜県内のそれぞれの会員会議所の手法などを学び相互に高め合っていけるように、岐阜ブロック協議会の運営をLOMとして全力で支援することで、我々の成長のプロセスであると捉え取り組んでいく。また、岐阜県内に留まらず日本JCなどへの出向や、さらには海を越えて姉妹JCである花蓮JCとの交流を通じて、この国がどうあるべきなのか、地域ビジョンの醸成や、課題の抽出ができる機会であると捉えていく。
まだ、この先未来は続く。今まで培われてきた大垣青年会議所の伝統や、先達が残した偉大なる財産を次代が効率的に利用し、新たなる可能性の開拓に活用できるシステムも残していく必要があると考える。諸先輩方が活動してきた膨大な財産は、このまちの未来への想いを馳せた魂や、多くの成果が詰まっている。
我々は先達が生命を燃やして築いてきたその想い、その魂を受け継ぎ、その基盤の上に次なる時代を構築していくことが、この大垣青年会議所の伝統を革新の連続をもって繋げていくことである。
飛躍する生命
組織とは、「一定の目標を達成するために集まった3人以上の集団」と定義することができる。我々は、共通の目標、目的に向かって活動をしている。一人の力ではその目標達成、目的実現することはできない。個性豊かな会員がいて、それぞれのリーダーシップを発揮していくことで、組織として結果を出すことができる。“クオンタムリープ”という言葉がある。これは量子力学の言葉で“非連続の飛躍”と訳されるが、成長は右肩上がりに直線的に伸びていくものではなく、突然ジャンプするように飛躍することがあるという意味で、今の日本にはこの非連続の飛躍が必要なのではないかと思う。つまり、それぞれの個性を、相互に認め合い、受け容れ、活かし合うことで強い組織ができ、個の力を統合していくことで、今まで見たこともないような成果を生み出すことができるのだ。一人の視点からは物事の一面しか見ることができないが、組織として多角的な視点を持つことで、個では想像することもできなかった価値を創造していくのである。会員がお互いを尊重し、承認し、学び高めあうことができる組織として成長発展していくことで、私達が目指す明るい豊かな未来へ繋げていくことになるのである。
私達は、今ある現状が当たり前にあるのではなく、それを構築してきた先達の想いを感じ、そして、時代が求める我々に課せられた使命に気づき、次代へと変革をもって飛躍へと導いていかなければならない。現状は、あまりにも過保護で甘い社会が蔓延してしまっているのではないだろうか。自らの使命を果たしていくために本来の厳しさを知り、また、世界から見た日本を知ることが必要である。個々が自分の役割を自覚するためには、現実を知り、己の能力を開発できる環境を作らなければならない。私は日本で生まれ育ち住まうこの国がさらなる飛躍ができるものと信じている。
燃やす生命
JCIクリードにもあるように、人間の個性はこの世の至宝である。これからの時代は、個性を尊重し高めていく時代である。我々は、物質的な豊かさの追求によって歪められた個性の在り方を正さなければならない。個だけが優先される個性の尊重などは、その歪められた価値観であり、本来は、個性の集合によって創造的な価値が生み出され、それが社会の成長に繋がるものでなければならない。改めて、問いたい。あなたは、このまちの未来を、そして、そこに存在する生命の姿を想像することが出来ているだろうか。
我々は、このまちの発展に寄与するため、自分自身としっかりと向き合う覚悟を持ち、個性の成長をもって明るい豊かな社会づくりを目指していく。我々は、このまちのリーダーであることの自覚と誇りを携え、変革の能動者として勇気を持ち率先して困難や障害に敢然と立ち向かい、与えられたこの生命を燃やし、輝いていくのだ。我々リーダーたるものが、今一度、己の中の甘えやおごりと戦う覚悟、つまり闘魂の精神をもってこのまちの未来の生命にために立ちあがり、私たちの手でこのまちを創り上げていこうではないか。自らの生命を燃やすことで、他の生命を燃やし、その連鎖こそが、このまちを愛する子孫に残していく財産である。
二度と無い生命だからこそ、その意味と価値を高め続ける覚悟を持ち、未来へと繋げるあらゆる可能性を追求し続ける。生命を燃やし、他の生命に影響を与えていくことの尊さを我々が体現する。それが、我々誇り高きJAYCEEである。そして、この生命の全てを、未来の生命のために燃やし続けていくのだ。